導入事例

CASE STUDIES

大分大学医学部附属病院

Tele-RAD

大分大学発ベンチャー始動 -地域医療は変わるか!-(『DIGITAL MEDICINE』Vol.6 No.4)

医師不足が深刻だ.小誌前号では「放射線科教授に聞く」という企画を行ったが,そこでは「独立行政法人」と「新研修医制度」による医師不足の問題が挙げられた.特に地方においてこの問題は顕著なようだが,現有の人材でいかに効率的に運営していくか,そのために何が必要なのか,少しずつ具現化しつつある.
2005 年8 月,大分大学発のベンチャー企業『有限会社オフィス・ラジオロジスト(代表取締役社長・友成健一朗氏)』が起業した.同社の事業目的はつぎのとおり.
◆画像診断・低侵襲治療に関するコンサルティング業務(遠隔画像診断を含む)
◆画像診断支援システムの開発
◆医師・技師の人材派遣業務
◆画像診断支援システムおよび院内情報システム構築に関するコンサルティング業務
当面は遠隔画像診断を中心とした地域医療への貢献が業務の中心となる.同社の代表である友成氏は,医局長を務めていた大分大学医学部放射線科(正式には大分大学医学部腫瘍病態制御講座 放射線医学)を起業と同時に辞職した.医局の全面的なバックアップのもと,医局の関連施設のひとつという位置づけでの起業である.ベンチャー設立の経緯と将来の展望を取材した.

大分大学医学部放射線科 森 宣 教授

■効率的な運営とIT

大分大学医学部放射線科医局には,現在医局員55 名(うち日本医学放射線学会認定放射線専門医41名)が所属している.卒後10 年以下の場合,男性11 名に対し女性12名で女性の方がわずかに多い.卒後11 年以上では女性5 名に対し男性27 名であるから,女性の割合がいかに上昇しているかがわかる.
常勤医師派遣施設は現在13 施設.54 施設でオンサイト読影(週1 ~3 回)およびIVR を行っている.人の移動による時間が発生するために非効率であり,リアルタイムの読影が行われているとはいえない状況だ.IVR はオンサイトであることが当然だが,読影だけならばIT を活用し遠隔読影診断によってかなり効率的な動きをすることができる.
大学と地域の契約医療機関が全て遠隔画像診断システムで連携できれば理想的である.しかし,現実的にはさまざまな壁がある.例えば,「予算」.インフラを使用するコストや機材の購入を誰が負担するのか.その他にも「営業担当や専任オペレーターの不在」,「読影医師の報酬問題」等,実際に行うとなると課題は多い.
『オフィス・ラジオロジスト』について大分大学医学部放射線科・森宣教授は「もっとも近い関連病院という認識」だと語っている.
「大学病院とその関連病院が約60施設あります.24 時間体制で画像診断とIVR をサポートしています.大学が独立行政法人化されたといっても,普通の企業のように運営はできません.半官半民のような,中途半端な立場です.それを解決する形が『オフィス・ラジオロジスト』です.24 時間体制でさまざまなサービスが可能です.女性のパワーが活かせるように,産休していても在宅で読影業務ができるような拠点をひとつ持ったほうがいいだろうという狙いもありました.また,大学医局は専門医養成所でありかつ教育・研究機関でもありますが,診療,教育,研究の全てを医局で完結できないというのが日本の現実ではないでしょうか.無理に完結しようとすると歪みが生じ,最悪の場合,迷惑は患者さんのところに向かいます.そこで,いろんな受け皿の一つとして外部に機関を一つ置いてみたということなのです」(森教授).

■第一章のはじまり…

そもそも,この試みは遠大な計画の第一章にすぎない.こうした構想は数年前から考えていたと,森教授は語る.
「当科の病棟に入院しているのは全てIVR による治療を目的とした患者さんです.癌治療をはじめとする血管系・非血管系IVR を行っています.しかし,当院で行えるIVR の件数は限られています.高度なIVR による治療を本当に必要とする患者さんが受けられないということが現実に起こりえるのです.治療にはタイミングも重要なのです.そこで,将来的には24 時間対応の遠隔画像診断を含めた,世界中の画像診断ができるような施設とIVR センターを併設した『低侵襲癌治療センター』を設立するというのが計画の全体像です.この放射線科領域の2 つの機能が融合すると,地域医療に新しいインパクトが生まれると考えているのです.本当の意味のサテライトとして,大学病院ではできない,臨床と研究の融合した施設を作れたらとずっと思っていたのです」.
まずは遠隔画像診断センターからスタートした.『オフィス・ラジオロジスト』だけで終わろうとは全然思っていないのだ.そのIVR・画像診断センターに遺伝子解析センターを加えることで,臨床に最も近い形で治療と基礎医学研究の拠点を作るということだから,夢は大きい.
「遺伝子治療は言葉だけが先走っている感じがしますね.さまざまな病態の遺伝子分析も終わっているわけではないのに,遺伝子治療ができるわけがない.しかし将来的には遺伝子治療は必ず医療の重要な位置を担うことは間違いありません.現実的に目の前にいる患者さんを治すためには,その方に最適な抗癌剤の感受性を観察しながら,最適な投与にコントロールすることが重要です.その受け皿として,構想しているセンターにoncologist を配置することでコントロールと治療が可能になると思っています」(森教授).
遠隔画像診断センター→ IVR センター→ oncologist を配置した総合的な癌センターというのが全体のスケールになる.「小さい規模で質を高く」というのが森教授の考えだ.患者にとっても適切な治療が早期に可能となり,経営判断が早いため,最新の医療機器の導入が可能になる.職員のモチベーションは上がり,医師の流出を防ぐ防波堤にもなる.運営がうまくいけば,まさに世界のモデルになる可能性も有している.
「大分から診断やIVRの最新技術,さらに,診断だけでなく治療方針をアドバイス,支援できる医療コンサルタントとして世界中に情報発信していきたい」と森教授は語っている.

■遠隔画像診断システムのノウハウをIT 企業から供給

遠隔画像診断のシステムと運営管理はドクターネット社に委ねられている.
「遠隔画像診断とIVR の機能を1つの施設に持たせるわけですから,かなりのお金が必要です.企業との間で共同企画ということで話を進めていました.そこに一つの可能性として,ドクターネット社の遠隔画像診断システムのノウハウを活用し,とりあえず遠隔画像診断だけ先行して起業してはという案が浮上しました.特定の企業が出資しているとなると,どうしても企業の採算,経営重視の理念に放射線科医が使われる感があります.経営を独立させて完全に我々で事業化することが重要だと考えたのです」(森教授).
さらに友成社長は「運営管理,財務,営業,サービス(読影)と,企業経営にはいくつかの部門が必要になり,マンパワーが必要になります.ドクターネットが運営管理を支援してくれていますので,当社では請求業務,システムメンテナンスなどの煩わしい業務から開放され,本来の放射線科医としての仕事に集中できるのです」とその利便性を語る.起業理念を重視し,地域医療に貢献するために最適なモデルを選択したと友成社長は語っている.

■地域ネットワークシステムのHUBとしての役割担う

今年3月に関連病院8施設とネットワークで連携された.「関連連携病院の全てをつなげようとは思っていません.まずは片道で1 ~ 2 時間かかるような病院は遠隔で画像を送ってもらって診断し,IVR その他難しい症例のコンサルテーションは現地に出向しています.やはり『直接病院に来てくれませんか?』という依頼の方が多いですからね」(森教授).
『オフィス・ラジオロジスト』の専任読影医は現時点で友成社長1人.遠隔画像診断件数は1ヶ月で約1200件.1日40~80件とのこと.「現在はときどき医局員にお願いしたりしていますが,緊急読影の依頼をどうするか,休日のときの対応をどうするかという問題があります.もう少し人員を増やしてもいいかと思います.例えば,海外に留学している医局員に画像を送って,時差を有効利用した読影体制を敷くこと,フレキシブルな時間での就業を望む産休・育児休暇中の医局員に在宅での読影をお願いすることなども考えています」(友成社長)とのことである.
これまであまり関心のなかった病院も遠隔画像診断によるIT 化には興味を持っているということで,大学発ベンチャーが地域の医療に与える影響の大きさを物語る.
「大学病院の出先機関みたいなものですから,地域の画像診断ネットワークにおけるHUB のような役割を当社が担っていければ,地域連携はスムーズにいくのではないかと考えています」(友成社長).

■メタフレームサーバーに期待

現在,メタフレームサーバーの運用試験が行われている.友成社長は「メタフレームサーバーが実現できれば,ソフトの更新などがサーバー上で行え,全ての端末がサーバーの処理能力を持つことになる.さらにデータが端末に全く残されてないため,セキュリティもより堅牢になるでしょう」とドクターネットによるさらなる技術進化に期待を寄せている.
「これまで自宅や学会等の出張先で読影するときは,端末に画像を配信してもらう必要がありました.メタフレームサーバーになるとこの画像配信が不要になります.ローカルにデータの移動はなく,サーバーにあるデータを,サーバーのCPU を使ってサーバー上のソフトウェアを動かして処理することになります.とても長い延長コードでPC を動かして見ているようなイメージです.遠隔地からはキーボードやマウス操作による指示がサーバーに送られ,サーバーからは処理結果の映像情報のみが手元のモニター画面に返されます.ログインでセキュリティをかけておけば情報が流れることはありませんし,端末にデータが残らないので,PC 紛失によるデータの漏洩も防ぐことができます.OS にも左右されないためMac でもWindowsでも使用可能です.遠隔画像診断システムとしては理想的なモデルだと思いますね」(友成社長).

■地域医療の再編成

ベンチャーである同社の運用もだんだんと「見えてきた」と森教授は太鼓判を押す.法人化も含めて医療制度は病院にとって相当厳しい時代になった.大学もその例外ではない.人材の確保,経営,患者の満足度と様々なテーマを抱えている.
「大学病院や県立病院などの地域中核医療機関と呼ばれるところは医療圏を作っています.それをもっと進化させて横断的な医療として『大分県医療圏』として確立できたらよいと思っています.例えば急性期の大型総合病院は県内にいくつもいらないと思うのです.赤十字病院,県立病院,市立病院,大学病院が急性期の患者獲得で張り合ってもしょうがないでしょう.大学病院はもっと教育・研究に特化し,高度先進医療に取り組んで,一般的な病気は他の医療機関に任せるべきです.そして低侵襲癌治療センター,画像診断センター,遺伝子解析センター等を設立し,研究だけでなくそれを臨床に活かせる工夫を地域で行うべきだと思いますね.そのためにも地域ネットワークシステムというインフラは非常に重要なアイテムだと考えています.光ファイバーによるネットワークシステムが構築できれば,画像データはどこに医師がいても全て共有できるのです.放射線科による高いクオリティの画像診断が現地に行かなくても共有できる.それによって治療,難しい症例の教育,コンサルテーション,卒前卒後の教育,等をさらに質の高いものにすることができると確信しています」(森教授).
画像診断を共有することで,知識という資産を地域で蓄積することもできる.地域のデータベースと成り得るのだ.森教授の視点は常に俯瞰的に地域全体を捉えている.「すごく無駄なことばかり」と評するように,各施設が同じ設備投資に費用をかけるのは,地域医療全体からすると確かに投資の無駄に見える.それぞれが機能を分化し投資すべき項目を10 項目から5 項目にするだけで,1 項目にかけられる投資額はグンと高くなる.
「地域内でライバル視することはないのです.もっと連携すればいい.全ての病院が研修の教育ができるわけではないのですから」と森教授は語る.地域医療におけるキーワードは「医の機能分化」ということだ.最後に放射線科の将来を聞いてみた.
「世界をリードするような高い研究,診療を持っていて教育をして,放射線科の世界だけでなく医学全体の発想でものを言えるようにならないといけない.放射線科は医学の歴史の中では新しい分野ですから,innovative でなければいけない.現在本邦の放射線科も人数が増えて需要も高いので,むしろ安定を目指している感じがします.そこが放射線科の危ういところでもあるのです.元々どんどん変化すべきものですから,医療環境がどう変化しようと心配することはない.安定は求めなくてよい.チャレンジあるのみですよ」と森教授は笑って答える.(石川)

医療施設情報

大分大学医学部附属病院

大分大学医学部放射線科医局に は,現在医局員55 名(うち日本医 学放射線学会認定放射線専門医41 名)が所属している.